なぜ「ネガティブな情報」が話題になりやすいのか?
「デマや俗説を信じてしまうのは、原因を錯覚するから。」👈このように言ったのは クリストファー・チャブリス氏とダニエル・シモンズ氏。著書は『錯覚の科学(2017 第2刷)』です。
2人とも2004年に「見えないゴリラ」という心理実験でイグノーベル賞を受賞したハーバード大とイリノイ大の教授。見えないゴリラ実験とは「人は何かに集中していると、常識的におかしなことすら見逃してしまう場合がある。」というもの。何を言っているか分からないと思いますが、まったくそのままの意味です。
実験はこちらの動画で確認できます。私はひっかかりました▼
この動画を見た人の約半数は見えなかったそうです。
ちなみに『錯覚の科学』は、こんな本▼
話を戻します。
ネガティブな情報が話題になりやすい理由は何か?これを考察するにあたって『錯覚の科学』からある一節を引用します。
私たちにとって、原因を推理することはたやすい
問題なのは、自分に都合のいいように原因を推理するのが、うますぎることである。
錯覚の科学「実験Ⅴ 俗説、デマゴーグ、そして陰謀論」275p
早い話、想像力が邪魔をするということです。
(例1)糖質制限はハゲる=「栄養がかたよるもんなあ。なんかそんな気がする」
(例2)ゲームは子供を不良にする=「あんな暴力的な遊びけしからん!とうぜん不良になるよ!勉強もしないし!子供は外で遊ぶべき!」
また錯覚の科学では、人の心理には3つの偏りがあるとのこと。
- パターンを求めたがる
- 2つの情報をつなげて飛躍させる
- 時系列的なストーリーを好む
1つずつ超かんたんに解説します。
パターンを求めたがる
人はあるパターンを元に生活しています。
例えば真っ暗な部屋に入った時、まずは壁をすすすっと手で触りますよね?それは、電気のスイッチがたいてい壁にあるというパターンにもとづいての行動です。
他にも仕事。私は医療畑出身なので、患者さんを1,000以上のパターンで診ていました。肌が黄色いなら肝臓が悪い?がに股で歩いているなら水頭症?ワードサラダと呼ばれる特徴的な会話をするなら統合失調症?のように。
パターン化は誰でも使います。サラリーマンの世界でも営業職なら売れる顧客のパターン。受付係ならクレーマーのパターン。SNSの世界なら関わって良さそうなアカウント、そうじゃないアカウント。
ようするにパターン化とは、因果関係を見出す能力なわけです。
無意識のパターン化
普通、人はパターン化に気づくことができません。
例えば通勤に10分以上かかるというあなた。毎朝 同じ通勤ルートで出勤していませんか?いつも同じ角で曲がり、同じコンビニに寄り、しかもほぼ同時刻に通過する。まるでコンピューターのような正確さです。
通勤ルートのパターン化には、人それぞれの理由があるでしょう。会社への最短ルート、または渋滞が少ないルートかもしれません。人によっては、気になる異性がいるからという理由かもしれませんね。
つまり無意識に行っているのが、パターン化なわけです。
このようにパターン化は私たちの生活に必要不可欠。しかし、場合によってはとんでもない錯覚を起こすこともあります。
害をおよぼすパターン化
パターン化が害をおよぼす。それは間違った情報をうのみにしてしまった場合です。また、大抵はその歪みに気づくことができません。
例えばダイエットに関して、10数年前までは「カロリー制限こそ痩せる基本」と言われていました。
このブログで5月にアップロードした『[カロリーvs糖質制限]ダイエットの新常識は「太り方」を知ることだった』と内容がかぶるのですが、カロリー制限が痩せる説は2010年以降 数々の臨床データによって否定されています。結果、現在は糖質こそ太る最大の原因とされています。
しかし、1度出来上がった「カロリー=太る」というパターンはかんたんに修正出来ません。
科学的にはっきりとしたデータが出ているのに、誰もがカロリー表記を見ては「うわ!500kcalもあるじゃん!デブのもと!」という考えから抜け出せません。
現に、これを読んでいる人の多くも半信半疑だと思います。
カロリー制限か?糖質制限か?
この問題を語るのはあまりにも話が脱線するので、気になる方はこちらの特設ページをご覧ください▼
2つの情報をつなげて飛躍させる
人はよく発想を飛躍させます。
例えば、血液型Bの人はマイペース、パンを1日2個以上食べると死亡リスクが17%上昇する、はしか予防のワクチンが自閉症を引き起こす。この3つはどこかで見たような文章ですね。
賢明な方なら「いやー、ウソでしょ」と冷笑できるはずです。なぜなら血液型が性格を決定づける原因でないことや、パンより体に悪い食品はもっとあること、あるいは自閉症の原因がワクチンというのは無理があると冷静に考えられるからです。
つまり原因→結果の関係が証明できないので、おかしな話だと判断できるわけです。
では、明らかにおかしな条件を信じてしまうのはなぜでしょう?
先ほどの3例を思い出してください。血液型+性格、簡単な作業+ぼろ儲け、ワクチン+自閉症。どれも関係なさそうなのに、中には信じてしまう人もいますよね。
答えは簡単。わかりやすい原因があるので発想の飛躍が起きやすいからです。
子供にゲームをさせると犯罪が増える?
”わかりやすさ”とは時に罪深いもので、原因と結果を誤認させます。
例えばニュースを見ていると「犯行におよんだ少年は、ゲームが趣味でした」とよく聞きませんか?このたった20文字が誤解のもととなります。
ゲームのイメージや若者のゲーム依存が問題となっている現状、それらを加味して「またゲーム依存の子供が犯罪起こしてる。ゲームは規制しなきゃ!」のように、悪役づくりが簡単なわけです。
いわゆる発想の飛躍。
対して「犯行に及んだ少年は、読書が趣味でした」と聞いた場合はどうでしょう?悪の存在がわかりにくいはずです。どちらかと言えば「真面目な少年がなぜ非行に?」や「ネクラっぽいからいじめの仕返しかな?」のように考えるのではないでしょうか。
この場合は悪の存在が曖昧になってしまいます。
わかりやすい正義や悪役という存在は人の勝手な想像によってつくられることが多いのです。
では、発想の飛躍が起こりやすい条件はあるのでしょうか?
3つの条件で発想は飛躍する
もう1度ゲームの例で考えます。
「犯行におよんだ少年は、ゲームが趣味でした」というたった20文字は、なぜ発想を飛躍させるのでしょう?
3つのポイントに注目してください。
まず間違ったことは言っていないという点。確かにゲーム趣味だというのは事実でしょう。しかし犯行の直接原因ではない可能性があります。つまりデータは判断材料のひとつでしかないのです。
次に情報が少なすぎるという点。例えば少年の生活状況や交友関係、そもそも犯行の動機も語られていません。情報が少なければ少ないほど勝手な想像が働くので、発想の飛躍が起きやすいと考えられます。
最後に、信頼できると誤認する点。これは無類の効果があります。例えば数日前に似たような事件があったから「よくあることなんだ!」と考えたり、ゲームが社会問題になっていると専門家が言ったなら「すごい人が言うんだから間違いない」というように。
かんたんにまとめると、正確で、短く、信頼できそうな一文はストレスなく読めるので発想の飛躍が起きやすいということです。そして1度ゲームが悪いと思い込んだら、情報を正しく読み取れなくなります。なぜならパターン化に気づけないからです。
たとえ反論となる臨床データがあっても、人は自分の想像力を信じてしまいます。
勝手な想像より、正確なエビデンス
「自分のカンを信じる」と言えば聞こえは良いです。しかし客観的なデータ、すなわちエビデンスにはかないません。
なぜなら私もあなたも、世の中のほとんどに対して素人だからです。例えばゲームと少年犯罪、血液型と性格、ワクチンと自閉症の関係。どれも良く知らないまま、知った気で発想を飛躍させます。
ボーっと生きてんじゃねーよ!
チコちゃんだって怒るわけです。
なら何を信じたらいいのか?
答えは簡単。臨床試験による正確な数値です。
例えば「ゲーム趣味の子供は犯罪率が高くなるのか?」を調査するなら、ランダムに集めた数10人の子供をグループ分けして、ゲームをプレイした場合とプレイしなかった場合を比較しなければいけません。また少なくとも1年以上の追跡調査が必要でしょう。
またそもそもの話ゲームだけを対象としているので、まったく公平ではないとも言えます。
ちなみにこのような研究は『無作為比較試験』と呼ばれ、究極の臨床研究とされています。つまり、誰も文句が言えないデータです。
裏を返すと信用に足りる研究が無いなら、それは専門家の意見止まりか不十分な研究なので、信ぴょう性のない情報と考えることができます。
では最後に質問です。
ゲームと少年犯罪の関係にエビデンスはあるでしょうか?
確かにゲームした後の子供の脳波を調べれば、攻撃をつかさどる部位が反応するかもしれません。しかし、それが分かったからと言って何100人も子供を集め、家庭環境や交友関係を調査したり、ましてや何年も追跡調査することはほぼ不可能です。
ゲームが少年犯罪の原因であるというのはそもそも立証が出来ないので、発想の飛躍と言わざるを得ません。
情報の正誤を見分ける方法
「それは実験が可能か?」と考えるのは、私がよく使う判断方法のひとつです。
実験不可能ならデータが無いということ。またデータが無いなら根拠がないということです。
「それってあなたの感想ですよね」とツッコめるなら、疑って然るべきと考えられます。
具体的な方法は、最後にまとめます。
ひと言で説明できないので、このような文章になりました。
3ページからはさらに面白くなります。
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